THE BACK HORN USEN STUDIO COAST CLOSED EVENT 「KYO-MEI LIVE」 〜STUDIO COAST THE FINAL〜 新木場STUDIO COAST 2022.1.13 PELICAN FANCLUB, THE BACK HORN
新木場STUDIO COASTの歴史の中で最も多くライブを行ってきたのは、今月末に「COAST最後のライブ」を担うことになったDIR EN GREYであるが、自分が普段からライブを観に行くバンドの中で最もCOASTのイメージが強いのがTHE BACK HORNである。
それは昨年の延期に延期を重ねたツアーの東京公演や自主企画ライブ「マニアックヘブン」など、数え切れないくらいにこの会場でライブをやってきたからであり、「歴代COASTでライブをやった回数上位10アーティスト」的なものが発表されたら、バクホンはかなり上位にいるんじゃないかと思われる。
この日はライブ前後に「普段は入れない新木場STUDIO COASTの裏まで入れる!」というイベントも行われており、ビーチやプールという、たまにそっちまで行けるライブはあるけれど、確かに普段は入れない場所を見ることができる。何度かその場所まで行ったことがあるので目新しさはないけれど、その時はまさかCOASTがなくなってしまうなんて思ってもみなかった。
・PELICAN FANCLUB
この日は客席は足元にマークが記されたスタンディング制であり、観客が整列しているかのように並んでいる中に、まずはフロントアクトのPELICAN FANCLUB。このバンドもかつてこのCOASTでライブを見たことがある(UKFCに出た時だっただろうか)だけに、なくなる前にこのステージに立つのを見ることができるのが実に嬉しい。
バクホンのライブではまず流れることはないようなバキバキのエレクトロ〜EDMサウンドのSEでメンバー3人が登場。大学生のようにすら見えるシミズヒロフミ(ドラム)、前までは髪色がピンクだったイメージが強いが黒に戻ったカミヤマリョウタツ(ベース)が先にステージに現れると、最後にエンドウアンリ(ボーカル&ギター)は田舎のコンビニの前にいるヤンキーみたいなスタジャンを着て登場したのだが、このバンドは千葉出身、つまり自分と同郷であるために、そう思ってしまう自分の思考がすでに千葉の田舎者なのかもしれない。
SEが止まるとシミズがトラップ的なリズムを刻む新曲「儀式東京」からスタートするのだが、サビで一気にギターロック的な開放感のあるメロディをエンドウが歌唱したかと思いきや、間奏では途端にシューゲイザーかグランジかと思うくらいの轟音になるという、1曲の中にどれだけの曲のアイデアをぶち込んでいるんだろうかという掴みどころのない曲から始まったことによって、ほぼ100%に近いくらいにバクホンのファンであろう観客たちは唖然としている感すらあった。
そんな新曲から、華やかな同期のサウンドも取り入れ、カミヤマのコーラスもエンドウのボーカルに重なっていく「7071」と、3人編成になってからの挑戦的なサウンドの楽曲が続くのだが、それはエンドウがイントロでカミヤマを指さすと、うねりまくるベースを弾いて音の隙間を埋めていくというよりも、もはやベースが歌っているかと思うような「ハイネ」ではサビでエンドウがそのタイトルに入っている「ハ」「イ」「ネ」という3文字のみを使ってリフレインを繰り返すことで癖になるようなキャッチーさを獲得していく。このバンドが様々なサウンド、形で自分たちなりの音楽を追求しているということが前半だけで充分伝わってくるし、だからこそ観客も体を揺らしたり、徐々に腕が上がるのが増えていったりとリアクションが良くなっていく。しっかり伝わっているのだ。
このバンドはTHE BACK HORNの事務所の後輩にあたるバンドということで、エンドウは年末に山田将司と食事に行き、その際に
「俺は将司さんと戦うのかと思った」
というくらいにこの日のライブへのプレッシャーを感じていたというが、そのプレッシャーもライブ前に楽屋に挨拶しに行ったら解れたというのもバクホンのメンバーが持つ優しさや温かさを示すエピソードだと言えるだろう。
エンドウはそのまま3月にメジャーファーストフルアルバムをリリースすることを告知すると、そのアルバムに収録される新曲「俳句」を披露するのだが、タイトルからして「?」なイメージがそのまま曲になっているというか、1回聴いただけではしっかり理解できないような曲であり、音源を買って歌詞カードをじっくり読みながら聴きたくなるような曲だ。そうすれば「俳句」というタイトルの意味がわかるかも…と思ってしまうあたり、すっかりエンドウの術中にハマっているのかもしれない。
そんなエンドウは
「僕らは千葉のバンドなんで、COASTは千葉からすぐに行ける大きいライブハウスっていうイメージで、いろんなライブを見に来た。東京の方に行く時に京葉線に乗っていても電車から見える。その度にいつかあそこでライブをやりたいって思い続けてきた」
と、COASTへの思いを口にするのだが、本当に千葉県民としてこんなにもCOASTのことを言語化してくれたエンドウには共感しかない。千葉の象徴的な場所の一つとも言えるディズニーランドのある舞浜のすぐ近くという、千葉県民としてはもうほとんど千葉県内だと感じられる場所だからだ。それは千葉にはCOASTのような大きいライブハウスがないということを熟知している千葉県民だからこそより強く共感を覚えるところである。
そんなエンドウが観客がリズムに合わせて手拍子する姿を実に嬉しそうに眺めていた「Day in Day out」からは実験性というよりもこのバンドの持つキャッチーさをギターロックのサウンドに乗せた曲であるということもあるし、エンドウの直前の言葉もあってか、明らかに空気が変わった。このCOASTがこのバンドにとってホームと言っていいようなものになっていた。それはバンドが自身のライブと音楽によって引き寄せたのだ。
タイトル通りに赤、緑、青の鮮やかな照明が、フロントアクトとは思えないくらいにこのバンドのためというくらいに明滅する、スマートな見た目とは全く異なる獰猛さを鳴らしている音から感じられるギターロック「三原色」もそうであるが、最後に演奏された、シミズが立ち上がるようにしてドラムを叩き、カミヤマはステージ前の台の上に乗ってベースを弾く「ディザイア」も人気アニメのタイアップになっているだけに、明らかにそれまでの曲よりも観客のリアクションが良かった。
それは紛れもなく「この曲を知っている」「好きな曲である」というものであり、そうした曲をバンドの形が変わった後に生み出しているこのバンドが今年リリースするアルバムには明るい未来しか見えない。
そうしたライブを見せた後にカミヤマ、シミズが先にステージを去ると、1人ステージに残ったエンドウはマイクを手にして
「STUDIO COAST、たくさんの思い出と憧れをありがとうございました!また!」
とCOASTへ最後の挨拶をしてからステージを去って行った。最後の最後にCOASTはこのバンドにとってホームになった。「また」ということは、そのホームに帰って来れる日が来るかもしれないということを、彼らはきっと一度なくなった赤坂BLITZが復活した(またなくなったけど)ことなどによってわかっているはずだ。
1.儀式東京
2.7071
3.ハイネ
4.俳句
5.Day in Day out
6.三原色
7.ディザイア
・THE BACK HORN
そしてTHE BACK HORNが何回立ったかわからないこのCOASTの最後のステージに立つ。
おなじみの壮大なSEが鳴ると、観客はみんな手拍子でバンドを迎え、菅波栄純(ギター)は登場するなり観客に手を振っている。ここでのライブはこの日で最後だけれども、何よりもライブができるというのが楽しみで仕方がないということがその姿から伝わってくる。
黒いシャツを着た山田将司(ボーカル)が
「こんばんは、THE BACK HORNです」
といつもと変わらぬ挨拶をすると、栄純が足元のエフェクターを踏みかえながら様々な音色のギターを鳴らす「その先へ」でスタートし、将司は
「始まりはいつだって ここからさ」
というフレーズを敢えてマイクを通さずにステージを指差しながら歌う。その姿からこの場所へのいつもとは違う思いが伝わってくる。やはりバクホンにとってこの会場は特別な場所なのだ。
岡峰光舟のベースのフレット部分が発光するというギミックも放たれ、早くもここで演奏されたのはリリースされたばかりの最新シングル「希望を鳴らせ」であるが、近年のバクホンはこうした希望を歌う曲が非常に多くなった。
それは大人になったからとも、優しくなったからとも言えるかもしれないけれど、この曲が単に希望だけを無責任に歌っているわけではないというのは、
「もう何度目のさよならだろうか もう何度目の幕切れだろうか
絶望の果て歌が生まれ来る 「前を向け」と音が鳴り響く」
という歌い出しによってこの曲が始まるように、バクホンは元々は人間の汚い部分、醜い部分や心の中の闇などの絶望を歌ってきたバンドだからだ。そんなバンドがもうベテランという立場になって、1人の大人として曲に載せるメッセージとして希望を歌っている。それがまた悪くなってきてしまったこの状況を切り裂いてくれるように感じられる。だからこそ「変わった」と言われてもファンが離れていくようなことにはならないし、昨年の「カルペ・ディエム」の振替ツアーも、ストリングスツアーも、今の世の中だからこそ今まで以上に我々はバクホンの音楽を必要としている。そんな象徴のような曲がこうして生まれたのである。
それは
「この世に生まれてきたのなら 打ち鳴らせその鼓動」
という祝福のようなフレーズをメンバーが声を重ね合う「グローリア」もそうであるが、
「バキバキのスマホ 流れてくタイムライン」
という今の社会性をストレートに切り取ったフレーズは実は昔から世の中や社会のことを自分なりの視点で歌詞にしてきた栄純ならでは(松田や光舟はまず使わないであろうフレーズだ)のものだよなぁと思う。
「希望を鳴らせ」もサビでタイトルフレーズを将司だけでなくメンバーが歌うのであるが、そのカップリング曲のタイトル通りに速さと激しさを持ち合わせ、将司の歌いながらの挙動も一気に激しくなる「疾風怒濤」も紛れもなく本来ならば観客が一緒に大合唱するという光景を想定してサビを作っていると思われるし、それを見ることができる日がきっと来ると思いながら聴くことができるというのが少なからずではあれど希望に繋がっている。
「重力うざいなあ」
という歌詞を「グローリア」の作詞者でもある栄純が書いているというのがやはりバクホンが今でも希望と闇のどちらも抱えたままで突っ走って生きているバンドであるということがわかるけれども。
するとここでおなじみの松田晋二(ドラム)の選挙運動のような挨拶MC。やはり「マニアックヘブン」など、この会場でたくさんのライブを行ってきただけに寂しさもありながらも、あくまでこの日を最後まで楽しみましょうという前向きさがこの日のバクホンの演奏からも漂っている。
重いビート一発とともに流れる同期のサウンドが不穏さを駆り立てる「心臓が止まるまでは」はバクホンの持つダークさをこの日最も鳴らす音でもって感じさせてくれる曲であるが、それでも心臓が止まるまではライブハウスがなくなっても音楽をやめずに進み続けるという強い意志として聴こえてくるというのは、これまでに数え切れないくらいに聴いてきた曲も場所とシチュエーションが変われば違う聞こえ方をするというライブならではのものだ。髪をかき上げながら歌う将司のボーカルもより迫力を増して客席に迫ってくる感すらある。
そのダークさを引き継ぎながらも、
「有罪 有罪 有罪 有罪
わかってる
重力よ、サラバ。
遠ざかっていく 僕の身体」
と、有罪と同時に死刑判決が下されて天まで召されていくというストーリーを1曲の中でガラッとメロディもサウンドも変わることで表現する「悪人」は最後にはどこかその終盤の美しいメロディによって感動すら感じてしまう。生と死、光と闇を両方描いてきたバクホンだからこそ、その相反する要素を1曲の中に封じ込めることができた曲と言えるだろう。
するとギターを持った将司が、
「音楽は記憶さえあれば、場所も時間も超えていくことができる」
と、自身が体感してきた音楽の力を口にしてから、ギターを弾きながら「瑠璃色のキャンバス」を歌い始める。それは音楽というものは脳内というキャンバスにどんな絵でもどんな色を使ってでも描くことができるくらいに自由なものであるということを示している。
それが「未来」の美しいメロディへと繋がっていくのだが、
「抱きしめて恋をした それが全てだった」
というサビのフレーズがこの日は誰か特定の人間に向けた、というよりはCOASTへ向けたものとして響き、バラードと言っていいタイプの曲とは思えないくらいに感情を剥き出しにしてマイクスタンドを握り締めながら歌う将司の姿により一層その思いを感じることができる。COASTがなくなってしまうという未来をバンドは思い描いたことがあったのだろうか。でもこの日を経験したこれから先のバクホンの活動も「鮮やかな未来」と言えるものになるはずだ。
その将司が、
「まだまだ今日を楽しもうぜー!」
と観客を煽ると、バクホン特有の「和」の要素を感じさせるような同期のサウンドが流れ、イントロから将司が煽りまくると観客も腕を振り上げ、さらに熱気が増してクライマックスへと向かっていく「太陽の花」で、Aメロ部分で松田はバスドラを踏みながらスティックを指揮者のように振り、栄純はサビで観客も入れられないくらいの絶妙なタイミングで合いの手的な手拍子を叩く姿が見ていて楽しい。そんなメンバーも本当に楽しそうな表情をしている。感傷よりも楽しさを、というのを1番感傷に浸ってもおかしくないメンバーが先頭に立って示している。
「忘れないで歌を」
という将司が伸びやかに歌い上げるフレーズはこの歌がこの場所で歌われたことを忘れないように刻み込むかのようだった。
そして松田がイントロのビートを刻み始めると、栄純がギターリフをそこに重ねる。それはこれまでにこの会場でも何度となく演奏されてきたであろう「コバルトブルー」であるが、将司は激しく動きながらも
「くだらねえこの世界」
のフレーズを思いっきり感情を込めて歌っていた。それは今のこの世界、世の中に対する将司の、バクホンの思いがこもっていた。そう思わなくてもいいような世界に少しでも早く戻れるように。
「俺たちがいたことを死んだって忘れない」
というフレーズがまさに今この瞬間、この会場にバクホンが、我々がいたことを死んでも忘れないと思うように。自分自身これまでに数え切れないくらいにライブで聴いてきたこの曲がこの日は今この会場への惜別の曲として響いていた。
そんなライブの最後を担うのはやはりこの会場で何度となく演奏されてきたであろう「刃」。
「立ち上がれ 死んでも譲れないものがある
振り向くな 後ろに道は無い 突き進め」
という歌詞の通りに、譲れないからこのステージに立つ。このライブが終わればもう後ろにこの道はない。
「いざさらば 涙は拭わずに走り出す
いざさらば 桜の花吹雪 風に散る」
というサビも含めて、間違いなくこの日、この会場のための曲になっていた。こんなにもこのメッセージが今この瞬間のものとして響くなんて。それはきっとこれから先もバクホンがライブをし続ける限り、いろんな場所で、いろんな状況でそう感じる日がやってくるはず。間奏で栄純が真ん中に来てギターを弾きまくる姿も、光舟の勇壮なコーラスに腕を上げて観客が応える姿も、COASTの記憶としてずっと忘れないと思う。去り際に松田がフロアタムを倒してしまって直してる間にメンバーが先にステージから去ってしまった姿を覚えていられるかはわからないけれど。
アンコールで割とすぐに4人が再び登場すると、栄純と光舟がこのCOASTの思い出を語り始める。
光舟「5〜6年前かな?「運命開花」の時のツアーは空調が壊れて、めちゃくちゃ暑かった」
栄純「暑すぎて蜃気楼見えてたもんな(笑)」
光舟「空調壊したべ?」
栄純「えいっ!って?(笑)」
光舟「昇竜拳!って(笑)」
と、どこまでも緩いのだけれど、それはここに少しでも長く立っていたいという思いをも感じさせ、将司がそうしたバンドの思いをまとめるようにCOASTに感謝を告げると、
「さよならもう会わない気がするよ」
というフレーズがまさにCOASTへの別れの言葉として響き、この時期に聴くからこそより強く切なさを感じさせる初期の名曲「冬のミルク」が「本当に終わってしまうんだな…」という感傷を募らせるように響く。栄純の泣きのギターがよりその思いを加速させていく。
しかし最後に演奏されたのは、松田の突っ走るようなビートによる「無限の荒野」。それはこのホームと呼べる場所がなくなってしまってもTHE BACK HORNというバンドは音楽を鳴らし続ける、またこうした場所を作って我々のことを迎え入れてくれる、だから我々もこれからも生きていけるということを示していた。
「ここが死に場所なのか?
「否、まだだ、ここでは死ねない」」
のであり、
「我 生きる故 我在り」
なのだから。
演奏が終わると光舟はベースをスタンドではなく、ステージに直接置いた。それは「ここはお前のための場所だ」と自身のベースに言うように。まだ自分はCOASTに来るチャンスが残っているけれど、これがCOASTで目にする最後の瞬間でもいいかもしれないというくらいにCOASTを愛し、COASTに愛されたバンドのCOASTでの最後のライブだった。
THE BACK HORNも「変わった」と言われることが増えたと思う。それはもちろん生まれてくる曲は変わってきたかもしれないし、メンバーの人間性も少しずつ変わってきたかもしれない。
でも光舟加入後以降しか知らない自分にとってはバクホンはずっとこの4人の変わらないバンドであるし、ベテランとは思えないくらいに今なお常にフェスやイベントにも出演しまくるというシーンの最前線で戦い続けているというのもこのバンドの全く変わらない姿勢と生き様だと思っている。
そんな変わらないバンドだからこそ、COASTがなくなってもずっとこうやってまた違うライブハウスでライブをし続けていくのも変わらないんだろうと思う。
コロナがまた拡大してきたことによってこの日来れなくなってしまった人がいることも、そもそもコロナ禍になってから全くライブに行けなくなってしまった人もいるということもきっとメンバーはわかっている。福島や茨城の田舎の青年という純粋さ、優しさもまた変わっていない部分だから。
そんなバクホンだからこそ、コロナでライブに行けなくなってしまった人も、昔はバクホンを聴いてライブに行っていたけど今はもうライブから遠ざかってしまった人も、これから新たにバンドに出会うであろう人のことも変わることなく腕を広げて待っている。そういう人たちが帰ってこれる場所をちゃんと作ってくれる。
その場所として最もホームであったCOASTがなくなってしまっても、それは絶対に変わらない。やっぱり、まだここでは死ねないから。
1.その先へ
2.希望を鳴らせ
3.グローリア
4.疾風怒濤
5.心臓が止まるまでは
6.悪人
7.瑠璃色のキャンバス
8.未来
9.太陽の花
10.コバルトブルー
11.刃
encore
12.冬のミルク
13.無限の荒野
文 ソノダマン