TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の劇中バンドである結束バンドの同名のアルバム。
このレビューを書こうと思ったのは、『ぼっち・ざ・ろっく!』が00年代のバンドの音がするという噂と、最終話でASIAN KUNG-FU GENERATIONの“転がる岩、君に朝が降る”をカバーした、ということを知って興味を持ったから。
アニメはまだ見ていません。すみません。
アニメやドラマ、映画の劇中のアーティストがそのまま曲を出すことは、その作品のファンからしたら最高以外のなにものでもないことは重々承知していいます。
僕だって「『あずまんが大王』の『サラバイ』って曲、よくないよね」って言われたら「ああん?(怒)」ってなるし、「『AIR』の『夏影』って曲、久石譲の『Summer』だよね」と言われたら「いや…でも…『夏影』だっていい曲だし!」となる。
だから、無粋なことをしているなあという自覚を持ったうえでこのレビューを書いています。
『結束バンド』ですが、これは00年代の音じゃないですねえ。僕たちの住むボカロとかガルデモとかそういう文化があった上での世界の2022年の音。低音もちゃんと大切にされている2022年の音。
ちょっと残念だなと思ったのは、バンド感がないこと。
バンドサウンドに声優さんのボーカルが乗ってるだけだな、と思ってしまった。
『けいおん!!』のライブイベントの本編ラスト、“ふわふわ時間”がバカみたいに感動するのは、彼女たち自身の音だけで構成されているからじゃないですか。
放課後ティータイムというひとつの運命共同体の音が流れているからじゃないですか。
でも『結束バンド』はボーカルだけでなく、ほかの曲はギター、ベース、ドラム同士ですらそれぞれ独立していて、それがボカロ的だなと感じさせる要因だった。
だけど『転がる岩、君に朝が降る』だけは結束バンドというひとつの塊になっていた。
他の曲は「ここにギターの音が欲しいな、ベースの音が欲しいな、ドラムの音が欲しいな」という、パーツで空間を埋めていくやり方。絵で言うとアクリル絵の具。
でも『転がる岩、君に朝が降る』だけは水彩絵の具のように音が混ざり合っていた。
なんでだろう。だから面白いなと思った。
たぶん、録音したミュージシャンの前に最高のお手本があったからかなあと推察する。
楽譜やデモではない、完成品のパッケージがあり、「このバランスの音にすればいいんだな」「こういう弾き方をすればいいんだな」「こういう歌い方をすればいいんだな」というお手本があったから。
もちろんほかの曲の作曲陣にも中嶋イッキュウや谷口鮪などトップのバンドマンたちがいるんだけど、『転がる岩、君に朝が降る』だけは特別だった。