先週の千葉LOOKに続いての、a flood of circleのベストセットツアー「FIFTHTEEN」。3公演目となるこの日はもうすっかりフラッドのライブでばかり来るようになった水戸LIGHT HOUSEであるが、果たして千葉LOOKの時に演奏したセトリをもってして「ベストセット」とするのか、それとも…という意味で実に大事な今ツアー2本目の参加である。
消毒と検温を経てLIGHT HOUSEの中に入ると、前回の夏に来た時には提供していなかったドリンクのアルコールが復活しているのが嬉しいが、やはりこの日も客席には足元のマークがあるスタンディング制で、ステージと客席最前列の間には飛沫拡散防止目的で、千葉LOOK同様にそれなりに距離がある。
18時になるとおなじみのSEが鳴って、千葉の時はツナギを着ていたがこの日はTシャツ姿の渡邊一丘(ドラム)を先頭にしてメンバーが順番にステージに登場。佐々木亮介(ボーカル&ギター)はこの日は白の革ジャンであるが、この色を着ているのを見るのはかなり久しぶりな気もする。
オープニングがバンドの始まりを鳴らすブルースである「ブラックバード」というのは千葉の時と変わらないだけに、やはりこの曲はバンドの15年の歴史を総括するライブの1曲目としては外せない曲なのだろうと思っていたが、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)がプロデュースした、早口ボーカルも含めたフラッド全部乗せ的な「ミッドナイト・クローラー」では間奏で青木テツ(ギター)が前に出てきてギターを弾きまくるのだが、その姿が明らかに初日の千葉の時よりもはるかに漲っているというのがよくわかる。同じ関東のライブハウスとしてイベントを共同開催している千葉LOOKとは対照的に天井が高いライブハウスなので、キャパに対してそうしたメンバーの姿が見やすいというのは水戸LIGHT HOUSEならではである。
イントロからキメ連発の「博士の異常な愛情」は夏にこの会場でLarge House Satisfactionとの2マンライブをやった時にもやっていた曲であるが、この1〜3曲目までは千葉と全く同じ流れであり、前日の横浜が全く違うセトリだったということを聞いていたので、「これはツアーでAパターン、Bパターンがあって、千葉と水戸はAパターンということか」ということを察する。なので同じセトリであるために、千葉の方のライブレポも参照していただきたい。
(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-950.html?sp)
しかしながらセトリが同じであっても全く同じものにはならないのがライブ、特に自分たちでその場で音を鳴らすロックバンドのライブだと思っている。なので亮介の
「おはようございます、a flood of circleです」
の挨拶も声質がどこかいつも以上に歌声に近いものになっているな、と思ったのだが、それは亮介がこの日はステージドリンクとして鬼ころしを導入していたという要素も少なからずあるだろう。夏にここに来た時はライブ中に酒を飲んでいなかっただけに、そのライブハウスのアルコールの販売状況や、世の中のコロナの状況などをちゃんと見定めて、酒を飲むかどうかを決めている。そうした配慮ができるというところが自分が亮介を、フラッドを信頼している理由の一つでもある。
そのライブごとに全く違うという部分は時にはトラブルやアクシデントとなって現れることもある。この日は「Golden Time」で曲中にHISAYOのベースの音が一瞬出なくなり、すぐにテツがスタッフに合図を出してスタッフが駆け付けて修復されていたが、こうしたアクシデントもまた自分たちで全ての音を鳴らす、一つの楽器の音が止まっても他の楽器の音が止まることはないロックバンドのライブだからであるし、テツのその瞬発力が実に頼もしく見える。
そのテツと亮介が揃ってステージ前に出てきてギターを弾く「泥水のメロディー」でさらにロックンロール度を高めるように疾走し、それは「Human License」の渡邊のトライバルなイントロのリズムにも現れる。亮介の
「ギター、俺!」
も早くも炸裂。
するとテツが客席に
「よう」
と語りかけるように喋りだすので、普段ほとんど喋らないだけに一体?と思っていると、自身が顔の汗を拭ったこのツアーの物販のタオルのカッコよさに改めて触れてタオルを広げてみせる。物販紹介は普段は渡邊がやることが多いだけに、これは珍しい一幕と言えるかもしれない。
そんなテツの発言を
「良いこと言うね」
と褒めていた亮介はReiが提供してくれた「I’M ALIVE」でハンドマイクになると、
「黒い髪が音になびいて
ベースは走るよ ROLLING」
のフレーズでHISAYOを、
「白いファルコン かき乱して
魂はOVERDRIVING」
のフレーズを「黒いファルコン」に変えてテツの方に向き合って歌うのだが、片手に鬼ころしを持ちながら歌うというのは、客席に突入することはできなくても、フラッドのライブらしい景色が戻ってきつつあるんだなと思わせてくれる。
「水戸が地元のバンドよりも水戸に来てるんじゃないかと思う。だって好きなんだからしょうがないじゃん?好きに理由なんかいらないじゃん?今日は楽屋に納豆が置いてあったからやっぱり水戸最高だなって(笑)」
と亮介もテツも納豆に喜ぶあたりがなんとも可愛らしいというか、無邪気なロックンローラーっぷりを感じさせてくれるのだが、「月面のプール」の美しいメロディはそんなふんわりとした空気を心の琴線を刺激する感動に変えてしまう。やはりフラッドを愛しているのはこうしたバラードが全て素晴らしい名曲たちばかりだからなんだよなといつも思わせてくれる曲である。
リズミカルな渡邊のドラムのイントロによって始まった「I LOVE YOU」はどこかHISAYOのコーラスがいつもより強く聴こえ、曲終わりでテツは上を向いて投げキスをするように指を掲げた。明らかに漲りまくっているのがそんな姿からもわかるのだが、千葉の時はそのテツのギターが出なくなり、急遽セッション的な演奏を展開した「New Tribe」はこの日はそうしたトラブルもなく無事に演奏できたのだが、ツアー各所でセトリが変わったとしても、この曲は変わらずにこのツアーで鳴らされていて欲しいと思うくらいに15年間のフラッドの活動の中でも大事な、エポックメイキングな曲の一つだと思う。きっとフラッドを好きな人の数だけそういう曲があると思われるが。
そんなフラッドファンの中でもこのツアーに初めて来た人が聴けて一際嬉しかったであろう曲は、イントロから観客が飛び跳ねまくって喜びを表現していた「The Future Is Mine」だろう。
「君の目に映る未来を見ている Future Is Mine, Baby」
というフレーズはここまでのフラッドの歴史を総括するようでありながらも、やはりさらにこの先を見ている。この曲もまた15周年ということを考えると欠かせない…やはりそう思ってしまう曲ばかりだ。
テツが「アワワワワ…」とコーラスを入れるのはまさに命をかけたダンスフロアと化す「Buffalo Dance」であるが、間奏では亮介とテツが向かい合ってバトルをするかのようにギターを弾き合う。その次の瞬間には2人で揃ってステージ前に出て行く。そんな演奏も含めて、こんなにも衝動を与えてくれる曲を演奏していても、自分の立ち位置から動くこともせずに楽しんでいるフラッドファンの存在があるからこそ、こうしてライブハウスでスタンディングという形式でツアーを回ることができている。なんだかそのツアーの観客であれていることを誇らしく思えるし、テツだけならず亮介も最後のサビ前にも「アワワワワ…」とコーラスを入れていた。メジャーデビュー期に生まれた曲が何人ものメンバーが入れ替わりながらも、今もこうして進化していることを目の前で見ることができている。こんなに幸せなことはないと思える。
納豆をもらったことがよほど嬉しかったのか、なぜか
「粘りのあるロックンロールをやっていきたいと思ってます」
と納豆を絡めた言葉を挟みながらも、粘りというよりもゴリゴリのHISAYOのベースによる「Blood Red Shoes」から終盤に向けてさらに演奏も観客のノリも激しさを増していく。
それは「STARS」からの「Beast Mode」でテツがギターを高く掲げながら身を捩らすようにして演奏していたことからもよくわかるのだが、時には機嫌が良くないんだろうか?とすら思う時すらある(それは鳴らしてるサウンドが尖りまくっているからよりそう感じることかもしれない)テツのこのさらなる解放っぷりは何なんだろうか。サポートでバンドに参加してから加入するまでの期間ですでに欠かせない存在になっていたテツが、完全にバンドをさらに上の段階に引き上げる立場になっている。ツアーを完走する時には一体どうなってしまっているのだろうか、って思うくらいに、わずか1週間でさらに凄まじい進化を遂げているのである。
そして亮介がギターを鳴らすと、
「イェー!」
という叫びに合わせて観客が飛び上がる「シーガル」へ。
「Everything is gonna be alrightじゃない世の中だから、Everything is gonna be alrightにしたいだけ」
と亮介は歌うように曲前に追加していたが、
「明日がやってくる それを知ってるから
またこの手を伸ばす」
というフレーズはフラッドの音楽から、それを鳴らす姿から受け取ることができる最大限の希望である。そうやってこの曲をライブで聴くことによって、我々は生きてきた。そんな15年に近い年月だった。今このツアーに参加していると改めてそう思う。
そして本編最後の「花」では亮介がAメロの言葉を詰め込みまくるようなフレーズを
「15年間駆け抜け続けてきた」
などの、今の心境をそのまま歌詞にするかのように即興で歌詞にして歌っていた。それによって10周年を迎える際に生まれた、
「届け 届いてくれ」
というバンドと我々ファンの切実な願いの結晶であるこの曲が15周年バージョンと言っていいくらいに今の曲になっていた。その今のバージョンに進化したこの曲(千葉ではこんなに歌詞を変えていなかったはず)を、改めてこの4人で音源にしてもらいたい。そんなことを思うくらいに素晴らしかった。だってそんなフラッドが
「すべて失くしても くたばっても
まだ世界は素晴らしい」
と歌っているのだから。そんな世界で生きていたいと思えるのだ。
テツが腕を上げながら登場したというあたりでやはり漲っているということがよくわかるアンコールではやはり亮介が
「生きているから納豆も食べられる(笑)死んだら納豆食べれないから(笑)」
と、差し入れもらったとはいえ、しょっちゅう水戸に来ているのになんで今になってこんなにも納豆を?とも思うのだけれど、
「15年やってきてたくさんプレゼントを貰った。the pillowsのさわおさんから貰ったプレゼントを」
と言って今年リリースの「GIFT ROCKS」収録の中の山中さわお提供の、the pillowsの新曲なんじゃ?というくらいにさわお節が炸裂している「夕暮れのフランツ、凋まない風船」を、亮介がところどころ歌詞が飛んでそうな感じで、しかしながらオレンジ色の照明がまさに夕暮れを思わせるようにして演奏する。千葉ではこの曲をやっていなかっただけに、どうやらアンコールは各公演で変わっていくようだ。
なので最後も千葉ではやっていなかった、ここから先も変わらずに進み続けるという意思を示すような「GO」が演奏され、「ベストセットなのにそういえばこの曲入ってなかったんだな」とも思うけれど、
「アンタのせいで
かわったよ 止まってなんかいられねえ
目を開けて見る夢をアンタが見せたんだ
どうしてくれんだよ」
というフレーズは我々がフラッドに対して思っていることをそのまま歌詞にしたようなものだ。こうして同じツアーに何本も行くくらいに止まってなんかいられないことも、フラッドをいつか必ず日本武道館で観たいというような夢も、フラッドに出会ったから、フラッドがあまりにもカッコよすぎるバンドだから抱いてしまったんだ。どうしてくれんだよ、と思うけれど、これからもその夢を抱えたまま(必ず実現するから、その時はまた違う夢を見るのだろう)、こうしてライブに行き続ける。フラッドは必ず「生きてて良かったし、これがあるから生き続けるしかないな」っていうライブを見せてくれることで、そうなってしまった我々への落とし前をつけてくれる。
「俺にはもうこれしかないんだ」
って思えるくらいに、フラッドとともに生き続けるしかない。今まで何度となくそう思ったことを改めて思うに至った、ベストセットツアーの3公演目にして2公演目の参加。この先、来月のファイナルの東京までは関東からは遠い地方のライブが続くし、平日の公演も多い。それでも1公演でも多く行きたい。どうにかしてどこか捻じ込めないかと、このライブが終わってからずっとスケジュールと格闘している。年間130本以上ライブに行くような生活をしていても、こんなことをさせるくらいにカッコいいバンドはそうそういない。
1.ブラックバード
2.ミッドナイト・クローラー
3.博士の異常な愛情
4.Golden Time
5.泥水のメロディー
6.Human License
7.I’M ALIVE
8.月面のプール
9.I LOVE YOU
10.New Tribe
11.The Future Is Mine
12.Buffalo Dance
13.Blood Red Shoes
14.STARS
15.Beast Mode
16.シーガル
17.花
encore
18.夕暮れのフランツ、凋まない風船
19.GO
文 ソノダマン