2010年代でもっとも多くの人に影響を与えた楽曲は“水星”だと思う。
DAOKO、ラブリーサマーちゃん、メトロミュー、鈴木京香は“水星”のカバー音源をリリースしている。
音源としてリリースされていないものでもkZmや佐藤千亜妃など錚々たる顔ぶれによる“水星”のカバーがある、というニュースが簡単にヒットする。
ライブではシバノソウがカバーしている場面を見た。
私が把握していない現場でも数多くのアーティストが“水星”をカバーしているであろうことは想像に難くない。
“水星”は2010年代に生きる一般人のアンセムだった。
いまシティポップが再評価されているが、“水星”はそれの先駆け的な役割も果たしていた。
“水星”のサンプリング元はKOJI1200“ブロウ ヤ マインド~アメリカ大好き”である。
かつて「過去の楽曲を掘る」という行為は時間とお金が必要なものだった。
“水星”がリリースされた当時もSpotifyやApple musicをはじめとする音楽のサブスクリプションに加入している人もそれほど多くなく、YoutubeにMVもいまほど充実していなかった。
ラーメンズがYoutubeに全コント動画をアップして多くの人を驚かせたのが2017年だ。“水星”がリリースされたのは2012年。Youtubeはまだまだそういう場ではなかった。
KOJI1200“ブロウ ヤ マインド~アメリカ大好き”から“水星”が生まれた、という衝撃は凄まじいものだった。
こんなところにこんな名曲があって、こんなリメイクがなされるのかと知った。
“水星”がtofubeatsからのみ生まれた音楽だったら現在ほど多くの人にカバーされることはなかっただろう。
KOJI1200“ブロウ ヤ マインド~アメリカ大好き”から生まれた音楽、というバックグラウンドに感銘を受けたからカバーしたのだろう。
“水星”を作れる人の音楽なら信頼できる、
KOJI1200“ブロウ ヤ マインド~アメリカ大好き”が引っかかった人なら信頼できる、
その思いに応えるアルバムだった。
tofubeatsが日本に生まれたこと、1990年に生まれたこと、インターネットの過渡期に生まれてきたこと、
それらすべてがつながるアルバムだった。